令和3年改正~具体的相続分による遺産分割の時的限界
長期間経過後の遺産分割の不都合
従来、相続人が具体的に取得する相続分は、被相続人からの生前贈与等の特別受益や被相続人への寄与分を加味し、法定相続分又は指定相続分の割合を修正して算出されてきました。
しかし、遺産分割がされないまま遺産共有持分を有する相続人が更に死亡する事態(数次相続)が繰り返されることによって、共有者の数がねずみ算式に増えていく結果、共有者が多数にもぼる状況が生じてきました。
また、長期間経過すると特別受益や寄与分に関する書証等が散逸し、関係者の記憶も薄れるため、遺産分割を円滑に実施することが困難になります。
このような場合でも特別受益や寄与分を考慮して遺産分割を行わなければならいとすると、徒に紛争が長期化することになります。
令和3年民法改正
そこで、令和3年民法改正により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、次の①又は②の場合を除き、民法903条(特別受益)から904条の2(寄与分)までの規定は適用しないこととされ、具体的相続分ではなく、法定相続分(相続分の指定があるときは指定相続分)により遺産分割を行うこととなりました(新民法904条の3)。
- 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。
- 相続開始の時から始まる10年の期間の満了6か月以内の間に、遺産分割の請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。
施行日及び特則
改正法は令和5年4月1日から施行され、施行日前に相続が開始した遺産の分割についても適用されることとされています(一部改正法附則3条前段)。
もっとも、新民法904条の3の規定をそのまま適用すると、例えば、施行の時点で相続開始時から10年を経過している場合には、具体的相続分による遺産分割を求める利益を施行と同時に失うこととなり、相続人にとって不測の事態となるおそれがあります。
そこで、一部改正法では、施行日前に相続が開始した遺産の分割については、相続開始時から10年を経過する時又は施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時に、具体的相続分による遺産分割を受ける利益が消失することとされています(一部改正法附則3条後段)。
このように救済措置はありますが、長期間経過後に特別受益や寄与分の立証を行うことは困難であり、早期に遺産分割を行うべきです。
(弁護士 井上元)