遺産分割の前提についての争い
遺産分割の前提について争う方法
遺産分割は、家庭裁判所における遺産分割調停により話し合いが行われ、この話し合いがまとまらないと審判手続に移行したうえで、遺産は審判により分割されます。
しかし、①相続人の範囲、②遺産の範囲、③遺言の効力など、相続の前提となる事項については、家庭裁判所が審判にて判断する権限はなく、地方裁判所において判断されることになります。
具体的には、①相続人の範囲については相続人の地位不存在確認の訴え、②遺産の範囲については遺産確認の訴え、③遺言の効力については遺言無効確認の訴えにより、地方裁判所にて判断され、その結論を前提に、家庭裁判所にて遺産分割調停、審判が行われることになります。
固有必要的共同訴訟か否か
上記確認の訴えは、争っている相続人間でのみ行ってよいのか、相続人全員で行う必要があるのかという問題があります。相続人全員で行う必要がある訴訟を固有必要的共同訴訟といいます。
上記訴訟のうち、②の遺産確認の訴えは固有必要的共同訴訟(最高裁平成元年3月28日判決・民集43巻3号167頁)、③の遺言無効確認の訴えは通常共同訴訟(最高裁昭和56年9月11日判決・民集35巻6号1013頁)であるとされています。
そして、①の相続人の地位不存在確認の訴えにつき、相続人のうちの1人が遺言書を隠匿・破棄したため民法891条5号の相続欠格事由にあたると争われた事例において、最高裁平成16年7月6日判決・民集58巻5号1319頁は次のように述べて固有必要的共同訴訟であると判断しています。
「被相続人の遺産につき特定の共同相続人が相続人の地位を有するか否かの点は、遺産分割をすべき当事者の範囲、相続分及び遺留分の算定等の相続関係の処理における基本的な事項の前提となる事柄である。そして、共同相続人が、他の共同相続人に対し、その者が被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えは、当該他の共同相続人に相続欠格事由があるか否か等を審理判断し、遺産分割前の共有関係にある当該遺産につきその者が相続人の地位を有するか否かを既判力をもって確定することにより、遺産分割審判の手続等における上記の点に関する紛議の発生を防止し、共同相続人間の紛争解決に資することを目的とするものである。このような上記訴えの趣旨、目的にかんがみると、上記訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するものというべきであり、いわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。」
固有必要的共同訴訟であるにもかかわらず、相続人の一部のみを相手方として訴訟提起すると却下されますので注意が必要です。