破綻状態にあった配偶者の相続権主張と権利濫用
夫婦は互いに相続人になりますが(890条)、戸籍上、夫婦となっている場合のみ配偶者として相続人になり、内縁の配偶者は相続人となりません。
それでは、夫婦関係が破綻している場合であっても相続人になるのでしょうか?
この点、数十年にもわたって夫婦の実体がない場合、戸籍上の配偶者が相続権を主張することは権利濫用であるとして争われた事案があります。
東京高等裁判所昭和60年12月13日判決・判例タイムズ609号72頁
夫と亡妻との間には昭和2年ころから約30年にわたって夫婦の実体はなく、夫はその間他の女性と実質的に夫婦としての生活を送ってきたものであり、亡妻死亡当時、夫と亡妻間の夫婦関係はもはや回復できる状態にはなく、このような状態に立ち至るについては、専らか、あるいは少なくとも主として夫に責任があったという事案において、上記判決は、次の点を指摘し、夫が亡妻の相続権を主張することは権利濫用、信義則違反にならないとしました。
- 夫の稼働によって不動産の取得に多少の貢献をしていること
- 亡妻があくまで夫との離婚を望んでいたのであれば、法的手段に訴えてでもこれを実現することにそれ程の困難は必ずしもなかったはずであると思われるのに、弁護士に1、2回離婚交渉をしてもらっただけで、それ以上の手段をとらなかったこと
- このことは夫の従前の性行を考慮したという事情はあるにせよ、亡妻の離婚の決意がそれ程固いものではなかったことを示すものと考えざるをえないこと
- 亡妻としては、遺言書を作成することによって、夫を相続から排除するか、その取得分を法定相続分より少なくすることも可能であったのに、そのような処置を講じていないこと
- 法は相続権を剥奪する制度を相続欠格及び推定相続人廃除の2つに限定していること