相続不動産の無償使用による利益と特別受益
遺産である土地上に相続人の1人が建物を所有しており、地代を支払っていなかったため、使用期間中の賃料相当額および使用貸借権価格が特別受益(民法903条)に該当すると争われることがあります。この点、東京地裁平成15年11月17日判決が判断しています。
東京地裁平成15年11月17日判決・判例タイムズ1152号241頁
賃料相当額が特別受益になるか
「本件土地の使用貸借権の価値をどのように評価するのが相当であるかということが問題となる。この点について、被告は、使用期間中の賃料相当額及び使用貸借権価格をもって本件土地の使用貸借権の価値と評価すべきであると主張する。しかし、使用期間中の使用による利益は、使用貸借権から派生するものといえ、使用貸借権の価格の中に織り込まれていると見るのが相当であり、使用貸借権のほかに更に使用料まで加算することには疑問があり、採用することができない。」
使用貸借権の価値
「したがって、原告がAから受けた利益は本件土地の使用貸借権の価値と解するのが相当である。そして、鑑定の結果によれば、不動産鑑定士○○は、取引事例比較法に基づく比準価格及び収益還元法に基づく収益価格を関連付け、更に基準値価格を規準として求めた価格(規準価格)との均衡に留意の上、平成5年○月○日時点の本件土地の更地価格を算出し、これに15%を乗じた価格、すなわち1935万円をもって本件土地の使用貸借権価格としているが、その算出経過には不自然、不合理な点は認められない。そうだとすると、本件土地の使用貸借権の相続開始時における価値は1935万円であると認めるのが相当であり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。」
特別受益性
「そして、○○によれば、Aは、○○商店の経営が思わしくないため、原告の生活の援助のために本件土地を原告のアパート経営のために使わせようとしていたこと、○○のとおり、本件土地の使用貸借権は、相続開始時において2000万近い価値があり、さらに本件土地の新規賃料は、鑑定の結果によれば相続開始時点で月額33万8000円と高額であることからすれば、Aと原告との間の本件土地の使用貸借契約の締結(使用貸借権の贈与)は、まさに原告の生計の資本の贈与であるといえ、特別受益(民法903条1項)に当たるというべきである。」