代襲相続者が得た特別の受益
Aが死亡し、子Xと子Yが相続人となるはずであったところ、子YがAより先に死亡しており、Yの子Kと子Xが相続人になったケースで、KがAから贈与を受けていた場合、これが特別受益(民法903条)に該当し、Kは贈与分を持ち戻さなければならないかとの問題があります。
この問題につき、学説では次のように解されています。
代襲原因が発生した後の代襲者の受益
持ち戻しの対象となることに異論はないようです。上記のケースでは、Yが死亡し、Kが推定相続人の地位を得た後の受益ですから持戻しの対象となります。
代襲原因が発生する前の代襲者の受益
次の3つの見解があります。
①説
代襲原因が発生する前の代襲者の特別受益は持戻しの対象とならない
②説
持戻し義務を課した立法趣旨は、相続人間の不均衡を調整することであることからすると、贈与時の資格は問題ではなく、相続開始当時に共同相続人であれば持戻し義務が生じる
③説(①説の修正説)
代襲原因が発生する前の代襲者の受益については、それが実質的に被代襲者への遺産の前渡しと評価することのできる特段の事情がなければ持戻しの対象とならない
福岡高判平成29年5月18日判決・判例タイムズ1443号61頁
上記問題につき、次のように判断されています。
「相続人でない者が、被相続人から直接贈与を受け、その後、被代襲者の死亡によって代襲相続人の地位を取得したとしても、上記贈与が実質的に相続人に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、他の共同相続人は、被代襲者の死亡という偶然の事情がなければ、上記贈与が特別受益であると主張することはできなかったのであるから、上記贈与を代襲相続人の特別受益として、共同相続人に被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はない。また、被相続人が、他の共同相続人の子らにも同様の贈与を行っていた場合には、代襲相続人と他の共同相続人との間で不均衡を生じることにもなりかねない。
したがって、相続人でない者が、被相続人から贈与を受けた後に、被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得したとしても、その贈与が実質的には被代襲者に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、代襲相続人の特別受益には当たらないというべきである。」
「被控訴人Kへの上記贈与は、亡Aの亡Yに対する遺産の前渡しの一環として、平成元年の本件土地1の贈与に引き続いて、自宅敷地の一部である本件土地2を亡Yに贈与するにあたり、その持分の2分の1を亡Yの将来の承継人である被控訴人K名義にしたものというべきであって、上記贈与が実質的には亡Yへの遺産の前渡しとも評価しうる特段の事情があるから、上記贈与は被控訴人Kの特別受益に当たるというべきである。」