ジョイント・アカウント預金は相続財産か?
日本では連名での預金口座(例えば、夫婦連名での預金口座)は見かけませんが、外国では連名での預金が認められる国があります。
(注)SMBC信託銀行のサイトでは、「当行における連名預金口座は2001年から新規口座開設の受付けを終了しており、それ以前に開設いただいたお客様にのみお取引を継続しておりましたが、ご利用者数の減少により更なる継続が困難と判断したため、2016年12月30日をもちまして連名預金口座の取扱いを終了いたします。」と掲載されています。
英語ではジョイント・アカウントと呼ぶようですが、被相続人が外国でジョイント・アカウント預金を有している場合、日本における相続において遺産になるのか否か争いとなった事案があります。
東京地裁平成26年7月8日判決・判例タイムズ1415号283頁
事案の概要
- 亡Aは公正証書遺言により、不動産を妻であるYに相続させるほか、金融資産については10分の4を先妻との子であるXに、10分の6をYに相続させる旨の公正証書遺言を作成していた。
- その後、バンク・オブ・ハワイに亡AとYの共同名義口座で預金3895万円が存することが判明した。
- 上記預金は、ハワイ州法の一つである統一遺産管理法典上のジョイント・アカウントに当たるものであった。
- Xは、上記預金は遺産であり、遺言により10分の6を取得したと主張して、Yに対し2337万円の支払いを求めた。
判決
「⑴ 亡Aの相続については、通則法36条により亡Aの本国法である日本法が準拠法となるから、どのような財産が亡Aの相続財産となるかについては相続準拠法である日本法によって定められる。他方、ある財産ないし権利が相続財産となるためには、相続の客体性、被相続性を有することが必要であるところ、相続の客体となり得るか否かは当該財産ないし権利の属性の問題であって、当該財産ないし権利に内在するものというべきであるから、法律行為の成立及び効力の問題として、通則法7条及び8条が定める準拠法によって判断されることになる。
そして、バンク・オブ・ハワイとの本件預金契約では、預金口座は、預金口座が所在する地の法律により規律されるとの定めがあるから、本件預金に適用される個別準拠法はハワイ州法である。
以上のとおり、本件預金が相続の客体となり得るか否かは、ハワイ州法によって判断すべきであり、相続の客体となり得ない場合には、本件預金が亡Aの相続財産を構成することはないものというべきである。」
「⑵ 本件預金はジョイント・アカウントとして、亡A及び被告が合有により所有していたものであり、日本法には同様の預金契約ないし共同名義人が合有により所有する預金債権はそもそも法制度として存在していないことから、本件預金が相続の客体となり得るか否かを判断するについては、ハワイ州法において、ジョイント・アカウントをどのような制度としてハワイ州法の法秩序全体が構成されているかに配慮しつつ検討すべきである。」
そして、ハワイ州が採用している統一遺産管理法典を検討したうえで、当該預金は共同名義人の一人である亡Aの死亡により自動的にYの所有になるから相続の対象にはならないとし、Xの請求を棄却しました。
コメント
上記事件では、統一遺産管理法典の他にも、当事者からアメリカの他の州における判決なども提出され、判決では詳細に検討されています。
このように、他国に資産が存する場合には相続財産性をめぐって争いが生じる得ることに留意が必要です。