借主の死亡により必ず使用借権が消滅するのか?
使用貸借契約は借主が死亡すれば終了します(民法597条3項、改正前民法599条)。これは、使用貸借関係が貸主と借主との特別な人間関係に基づいていることが多いことが考慮されたためです。
しかし、同条は任意規定・補充規定であり、特約によって排除することができます。また、裁判例では、一定の事情がある場合には同条の適用が排除されています。
このように、不動産が使用貸借されている場合、借主の死亡によって死亡貸借は終了するのが原則ですが、一定の事情がある場合には使用貸借は終了しないとされていますので注意が必要です。
使用貸借終了に関する裁判例
東京地裁平成元年6月26日判決・判例時報1340号106頁
使用貸借契約の終了
「本件建物は店舗兼従業員宿舎とすることを意図して建築されたものではあるが、原告がBに本件建物の使用を認めたのは、BがAの従業員であることを居住の条件としたのではなく、むしろ同人が妹の夫であることからその家族の住居を確保する必要があるとの配慮に出たものと認められるから、BがAを辞めたからといって直ちに同人との間の本件建物の使用貸借契約が終了すべきものであったとはいえない。」
期間経過による終了
ただし、本件使用貸借契約は期間経過により終了したとしました。
「使用貸借が無償の利用関係であることを考えると、このように使用期間が40年になろうとして、しかも当初予定していた竹子を含め松夫の家族の住居を確保するために原告の方で配慮しなければならないとの事情も変化を来している現状の下では、遅くも本件口頭弁論終結時には、本件建物の使用貸借契約はその目的に照らし使用収益をなすに足るべき期間を経過して終了したものとみるのが相当である。」
東京地裁平成5年9月14日判決・判例タイムズ870号208頁
判決は、次のように述べて借主の死亡により使用貸借契約は当然には終了しないとしました。
「民法上、使用貸借契約は、借主の死亡によってその効力を失うとの規定が存する(同法599条)。しかしながら、同規定は、使用貸借が無償契約であることに鑑み、貸主が借主との特別な関係に基づいて貸していると見るべき場合が多いことから、当事者の意思を推定して、借主が死亡してもその相続人への権利の承継をさせないことにしたにすぎないものと解される。そして、土地に関する使用貸借契約がその敷地上の建物を所有することを目的としている場合には、当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物所有の目的が重視されるべきであって、特段の事情のない限り、建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときに、その返還の時期が到来するものと解するのが相当であるから、借主が死亡したとしても、土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにはならないというべきである。」
東京高裁平成13年4月18日判決・判例時報1754号79頁
「民法599条は借主の死亡を使用貸借の終了原因としている。これは使用貸借関係が貸主と借主の特別な人的関係に基礎を置くものであることに由来する。しかし、本件のように貸主と借主との間に実親子同然の関係があり、貸主が借主の家族と長年同居してきたような場合、貸主と借主の家族との間には、貸主と借主本人との間と同様の特別な人的関係があるというべきであるから、このような場合に民法599条は適用されないものと解するのが相当である。」
京都地裁平成27年5月15日判決・判例時報2270号81頁
「AとBとの間の本件店舗部分の使用貸借は、単に父子の人間的な関係に基づく便宜の供与を超えた、経済的な利害得失を含むものであるといえるから、民法599条の適用を否定すべき特段の事情があるということができる。」