遺産分割の財産目録に記載されていなかった財産の帰趨
遺産分割協議もしくは遺産分割調停が成立した場合、遺産の内容を具体的に列挙して誰がどの遺産を取得するのか明記するのが通常です。そして、財産目録に記載されていない遺産が判明した場合の処理としては、「将来新たな遺産が判明した場合、Aが取得する」旨の条項が付されるのも多いかと思われます。
しかし、このような条項もなく、あるいは「将来新たな遺産が判明した場合には別途協議する」との条項が記載された場合、新たな財産が判明すると、別途、遺産分割協議が必要となるのが原則です。
ただし、財産目録に記載されていなかった場合であっても、例外的に、特定の相続人が取得したものと解された事例があります。
東京地裁平成19年4月26日判決・判例秘書
遺産としてマンションと私道部分が存した事案で、私道部分が遺産として存することが判明していなかったため調停条項には記載されず、かつ、調停条項には、「将来新たに目録記載の財産以外の遺産が発見されたときは、原告と被告は2分の1の割合でこれを分割する」とされていました。
ところが、調停成立後、私道部分の持分が存することが判明し、原告は被告に対し、遺産分割調停において私道部分の持分を取得したと主張して、移転登記手続を求める訴訟を提起しました。
判決は次のように述べて、遺産分割調停により原告が当該私道を取得したものとしました。
「本件持分権は、○○マンションの私道部分の土地の持分であること、この土地は、登記地目は宅地であるものの、現況地目は公衆用道路として、非課税の扱いになっていること、本件遺産分割調停では、○○マンションは原告が取得することとされたが、調停の時点では、本件持分権が遺産として存在することについて、原告被告とも認識していなかったことが認められる。
一般に、建物及びその敷地(ないしその所有権)とそれに至る私道部分の土地(ないしその所有権)との関係は、主従の関係とまでいうことはできないとしても、これに準ずるような性質のものであって、私道部分の土地は、建物及びその敷地にとって必要なものであって、敷地の特段の事情がなければ、同時に処分されることが通常であること、本件においても、本件持分権は、○○マンションを取得した原告においては、○○マンションの利用及び処分等のために必要である一方、○○マンションを取得していない被告においては、利用価値や経済的価値を有するものではないこと、本件遺産分割調停の際には本件持分権が遺産であることが認識されていなかったため、本件遺産分割調停調書に記載されていないものの、もしこれが認識されていれば、当然に原告が取得し、これが本件調停調書に記載されたものと考えられること、本件持分権は非課税の公衆用道路に関するものであって、その経済的価値も、本件遺産分割の対象となった遺産全体からするとごく小さなものであることの各事実に照らすと、本件持分権については、本件遺産分割調停○○条により、原告と被告が各2分の1の割合により取得したのではなく、○○マンションとともに、原告が取得したと解するのが、本件遺産分割調停について、当事者の合理的意思に合致するものというべきである。」