複数の日付が記載されている遺言は有効か

自筆遺言の要件の一つに「日付」の記載があります。日付の記載がなければ遺言は無効になりますし、不明確であれば無効になってしまう可能性が高くなります。

日付の記載が不明確なものとして、複数の日付が記載されている場合があり、その効力が問題となります。

東京高裁昭和55年11月27日判決・判例タイムズ436号150頁

第1葉部分と第2葉から第4葉部分の2つの日付の記載がある遺言についての事案で、遺言の効力が争われました。遺言は、全文を同一の日に記載していないこと、及び二つの日付がありながらどの部分が何時記載されたかが明らかでないことを理由として、自筆証書遺言の方式に違背した無効なものであるという主張に対し、上記東京高裁は遺言を有効としました。

具体的には、まず、第1葉は、全文が毛筆による墨書であって末尾に「昭和46年10月18日」という日付の記載と署名押印があるところから、全体が同日記載されたものと認められるとしました。そして、第2ないし第4葉は、いずれも同じ横書きの書簡用紙に大部分は黒インクのペン書き、一部はブルーブラックインクのペン書き及び黒色ボールペン書きで、推定相続人全員への推定遺産の配分が記載され、これに引続き第4葉の末尾に毛筆墨書で「昭和47年11月10日」との記載と署名押印があるが、その全体が相当の期間をかけて練り上げられたものであり、その間一応得られた成案に立脚して先ず黒インクのペン書きで記載し、これに補充、訂正を加え、それ以上改めるべき点はないとして最終的な遺言書とすることを決断したときに末尾の墨書部分が付加されたものと推定されるとし、どの部分が具体的に何年何月何日に記載されたかを厳密に確定することはできないが、墨書以外の部分も墨書の日付の日までには記載されていて、これがその日に遺言内容として確定されたものと認めました。
上記東京高裁は、第1葉部分と第2葉から第4葉部分が作成された日を上記のように認定したうえで、以下のように述べました。

「民法968条は数次にわたり日を異にして自書した文書をあわせてこれを一つの遺言にまとめ、とりまとめた日をもって遺言の日付とすることを禁止するものとは考えられないから、右のように1通の自書した文書に補充、訂正を加えてゆき、これを仕上げた段階でその日を日付として遺言書とすることも当然許されるものというべきである。従って本件遺言は、具体的な財産の配分を別紙に譲り相続人間の和合と協力を要請した第1葉の遺言と、具体的な財産の配分を定めた第2葉ないし第4葉の遺言との2つの部分から成るが、その間に何ら牴触するところはなく、夫々の内容及びそれが1綴りとなっている状態から考えれば、右両者は、全体として1個の遺言を形成しているものというべく、この場合、本件遺言の日付は、特段の反証がなければ、後の日付である昭和47年11月10日であると認めるべきである」

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