香典は誰に帰属するのか?
香典とは、仏式等の葬儀で、死者の霊前等に供える金品で、通常、被相続人の死後に喪主あるいは遺族への贈与として交付されるものです(東京地裁昭和61年1月28日判決・判例タイムズ623号148頁)。
香典は遺産分割の対象とならない
香典は、喪主あるいは遺族へ贈与されるものですから、遺産分割の対象となりません(広島高裁平成3年9月30日決定・判例時報1434号81頁)。
また、仮に葬儀費用に充当した後の余剰があったとしても、香典の残額も喪主に帰属すると考えられています。
広島高裁平成3年9月30日決定・判例時報1434号81頁
「香典の基本的性格は葬式費用の一部負担と考えられる。そうだとすると、香典は喪主に贈られたものと解するのが相当であり、相続財産と解することは困難である。したがって、本件においては、A、Bの各喪主を務めたYが、香典を第一次的に葬式費用に充当し、次いで法事等の祭祀費用に充てることができると解するのが相当である。そして、一件記録によれば、Yは、香典を葬儀費用、法事等の祭祀費用に消費してしまっていることが認められる。以上から明らかなとおり、香典も遺産の対象に含めるべきであるとのXの主張は理由がないというべきである。
また、Xは、葬儀費用を遺産から控除し、他方、香典を遺産の対象に含めないのは不公平な措置であるとも主張する。しかし、そもそも前記認定のとおり香典は遺産の対象となるものではなく、また、一件記録によれば、Yは、原審判添付別紙遺産目録~記載のA名義の預金は、Aから葬儀費用に使用するようにといって預けられた預金であること、Aが、Bの死亡を知っていたならば、自らが喪主となり、右預金から葬儀費用等を支出したと考えられること、Yは、Aの指示通り、前記預金を使用したこと、前記認定のとおり香典は葬儀費用、法事等の祭祀費用として費消されてしまっていること等の事実が認められるのであり、これら諸般の事情を勘案すると葬儀費用を遺産から控除し、香典を遺産の対象に含めない措置が不公平な措置であるとは必ずしもいうことはできない。よって、この点についてのXの主張も理由がない。」
葬儀費用負担との関係
津地裁平成14年7月26日判決・判例秘書は、相続人でない者が葬儀費用を負担した場合において、相続人は、葬儀及び納骨などの諸費用のうち死者を弔うのに直接必要な儀式費用を相続分に応じて分担すべきであるが、葬儀費用から香典分が控除されるべきでないとしています。
津地裁平成14年7月26日判決・判例秘書
Aを弔うのに直接必要な儀式費用であって、被告らが相続分に応じて負担すべきものであるが、その余の通夜、告別式等の会葬者等の飲食代金や返礼の費用、籠盛、生花、放鳥、戒名代、法要代、○本山△寺□台への納骨冥骨金等はこれには含まれず、被告らが負担すべきものではない。また、原告は、本件葬儀に際し、21万1000円の香典を受け取っているが、通夜、告別式等の会葬者等の飲食代金や返礼の費用、籠盛、生花、戒名代等の費用に満たないものであるから、この香典分は被告らが負担すべき葬儀費用から控除されるべきものではない。