祭祀財産の承継とは?
被相続人が死亡して、相続人等に承継されるのは、相続財産だけではありません。祭祀財産も承継の対象になり、相続とは別に、誰が承継するのかについて争いになることがあります。
祭祀財産
民法では、「系譜、祭具及び墳墓」とされています。「系譜」とは家系図といった家系の流れを示す図、「祭具」とは、位牌、仏壇、仏具、神棚など、「墳墓」とは、墓石、墓碑、墓地(墓地については争いがありますが、一般的に含まれると考えられています)のことです。
これら祭祀に関する財産は、相続財産と別に扱われ、祭祀を承継すべき者である祭祀主宰者が承継します(民法897条)。相続財産とは別に扱われるのは、相続で分割するのはその性質上なじまないことや、従来の慣行や国民感情への配慮によるものです。
祭祀主宰者
祭祀主宰者は、被相続人と親族関係にあることは必要ではなく、また、氏が同じであることも必要ではありません(大阪高裁昭和24年10月29日決定・家庭裁判月報2巻2号15頁)。
祭祀主宰者の決める方法
祭祀主宰者は、以下の順番で決まります(民法897条)。
①被相続人による指定
まず、被相続人による指定です。その方法は、生前の指定や遺言による指定でかまいません。書面による必要はなく、口頭でもよく、黙示的でも外部から被相続人の意思が分かれば足ります(名古屋高裁昭和59年4月19日判決・判例タイムズ531号163頁)。
②慣習
被相続人の指定がない場合は、慣習によります。
③家庭裁判所の審判
慣習もなく、当事者間で争いがあるような場合は、家庭裁判所の審判によります。
裁判所は、承継者と被相続人との身分関係のほか、過去の生活関係および生活感情の緊密度、承継者の祭祀主宰の意思や能力、利害関係人の意見等の事情を総合して判断しています(大阪高裁昭和59年10月15日決定・判例タイムズ541号235頁)。
祭祀財産の分割承継・共同承継
祭祀財産は単独で承継されるのが原則ですが、分割承継(東京家裁昭和49年2月26日審判・家庭裁判月報26巻12号66頁)や共同承継(仙台家裁昭和54年12月25日審判・家庭裁判月報32巻8号98頁)が認められることもあります。
祭祀承継の留意点
- 祖先祭具は、相続財産に算入されません。したがって、相続分や遺留分、特別受益の問題も起こりません。ただし、純金製の仏像・仏具のように、祖先祭祀の用具というよりは財貨としての色彩が強いものについては、相続財産として扱われるべきとされています。
- 祭祀承継者は、祭祀を承継することを理由に相続財産の中から特別の受益を与えられることはありません。ただし、相続人全員の合意があれば別です。
- 祖先祭具の承継については、承認や放棄の制度はありません。したがって、祭祀主宰者とされた者は権利を放棄したり、辞退することができません。しかし、祭祀を行う義務を課されるわけではありません。