死後委任事務の問題
自分が死んだ後、葬儀、火葬、埋葬などを間違いなく行ってくれる人間がいる場合はいいのですが、相続人となる者と疎遠である場合には、希望しているとおりの葬儀等を行ってくれるとは限りません。また、そもそも相続人となる者がいない場合もあります。
このような場合には、遺言で死後事務を定めておく方法と死後事務委任契約を締結しておく方法があります。
遺言で死後事務を定めておく方法
遺言で死後事務の内容を記載し、遺言執行者を指定して、遺言執行者に死後事務を執行してもらうことが考えられます。
しかし、遺言執行者に指定された者は遺言執行者に就任するかしないかの自由があり、また、葬儀等の死後事務のほとんどが法定遺言事項ではないため、遺言執行者に法的な強制力を及ぼすことができません。
死後事務委任契約を締結しておく方法
確実に死後事務を実現したい場合、死後事務委任契約を締結しておく方法があります。弁護士等の信頼できる者との間で、葬儀等やお世話になった方や金融機関等への死亡通知などを行ってもらうことを内容とする死後事務委任契約を締結しておくのです。
死後事務委任契約の有効性
委任契約は、委任者または受任者の死亡により終了するとされていますが(民法653条1項)、死後事務委任契約は委任者の死亡によっても同契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨であるとされています(最高裁平成4年9月22日判決・金融法務事情1358号55頁)。
最高裁平成4年9月22日判決・金融法務事情1358号55頁
委任者が、受任者に対し、入院中の諸費用の病院への支払、自己の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払、入院中に世話になった家政婦や友人に対する応分の謝礼金の支払を依頼する委任契約は、当然委任者の死亡によっても同契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものであり、民法653条の法意は同合意の効力を否定するものではないとされました。
相続人による解除の可否
死後事務契約を締結しても、実際に委任者が死亡し、その地位を相続した相続人が死後事務委任契約を解除してしまうことが考えられます。この点、東京高裁平成21年12月21日判決・判例タイムズ1328号134頁は、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許されないとしています。
東京高裁平成21年12月21日判決・判例タイムズ1328号134頁
本来、委任契約は特段の合意がない限り、委任者の死亡により終了する(民法653条1号)のであるが、委任者が、受任者に対し、入院中の諸費用の病院への支払、自己の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払、入院中に世話になった家政婦や友人に対する応分の謝礼金の支払を依頼するなど、委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者の死亡によっても当然に同契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨と解される(最高裁平成4年(オ)第67号同年9月22日第三小法廷判決・金融法務事情1358号55頁参照)。さらに、委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者は、自己の死亡後に契約に従って事務が履行がされることを想定して契約を締結しているのであるから、その契約内容が不明確又は実現困難であったり、委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である。