墓地経営者による区画整理と改葬
墓地経営者側が区画整理などの都合により、墓地使用権者に対して、お墓の移転を求めることができるのでしょうか?
墓地、埋葬等に関する法律5条1項は、改葬を行おうとする者が市町村長の許可を受けなければならないと規定しています。そして、この規定を受けて、墓地、埋葬等に関する法律施行規則2条1項は、市町村長の改葬の許可を受けようとする者は、一定の事項が記載された申請書を市町村長に提出しなければならないと定め、同条2項は、その申請書に添付すべき書類を挙げているところ、同項2号には、そのような書類として、「墓地使用者等以外の者にあっては、墓地使用者等の改葬についての承諾書又はこれに対抗することができる裁判の謄本」を挙げていることから、改葬を行うことができる者は、墓地使用者に限られないと考えられます。
したがって、墓地使用権者がお墓の移転に同意してくれない場合、墓地経営者は、墓地使用者に対して改葬を承諾することを求める裁判を提起し、勝訴判決を得て、改葬を行うことになります。
実際の案件として、東京地裁平成21年10月29日判決・判例タイムズ1328号139頁があります。寺院墓地を経営する宗教法人が墓地使用者に対し同じ墓地内の別の区画への改葬を承諾することと、墳墓を収去し従前の使用区画を明け渡すことを求めた裁判例がありますのでご紹介します。
珍しい裁判例ですので、改葬についての紛争解決の参考としてください。
東京地裁平成21年10月20日判決・判例タイムズ1328号139頁
事案の概要
宗教法人Xは、本堂、客殿と庫裡を肩書住所地から本件墓地の所在地に移転することを計画、その建築場所を確保するため、本件墓地の区画整理を行い、本件墓地の範囲を縮小することとしました。そこで、墓地使用者Yに対して、同じ墓地内の別の区画への改葬を承諾することと、墳墓を収去し従前の使用区画を明け渡すことを求めました。
判決
判決は、次のように判示して、宗教法人Xの請求を認めました。
「本件区画整理事業は、宗教法人である宗教法人Xが、自らの所有する不動産に変更を加えようとするものであるから、宗教法人Xは、本件区画整理事業を遂行するために、宗教法人の財産の所有及び維持運用に関して定める法律である宗教法人法の規定に従った手続を執る必要がある。
他方で、本件墓地は寺院墓地であって、その性質上、すべての墓地使用者が宗教法人Xの檀徒であることが予定されているから、墓地使用者は、宗教法人法所定の手続に則って本件区画整理事業を行うことが決定された場合、この決定に従って本件区画整理事業に協力する義務を負うのであって、宗教法人Xとの間で締結された墓地使用契約に基づく墓地使用権もこのような制約を伴うと考えるのが相当である。」
「宗教法人Xは、宗教法人法及び本件規則に定められた手続に則って本件区画整理事業を行うことを決定したと認めることができるから、墓地使用者Yは、本件区画整理事業に協力し、宗教法人Xが指定する本件移転先区画への本件墳墓の移転及び改葬の承諾をした上、本件区画を宗教法人Xに明け渡す義務を負うというべきである。」
「墓地使用者Yは、墓地の管理者は正当の理由がなければ焼骨の埋蔵の求めを拒むことができないと定める墓埋法13条を根拠として、宗教法人Xが既に埋蔵された焼骨の収去を求めることはできない旨を主張する。
しかし、同条は、墓埋法が、国民の宗教的感情を尊重しつつ、公衆衛生を図るために、焼骨を埋蔵することができる区域を墓地に限定し(4条1項)、墓地経営を都道府県の許可に係るものとしたため(10条1項)、墓地の管理者がみだりに焼骨の埋蔵の求めを拒むと、国民が焼骨を埋蔵することが妨げられてしまうことから、このような事態が生じることを防ぐために、墓地の管理者に対し、焼骨の埋蔵の求めに対する応諾義務を課したものである。そうすると、墓地使用者Yが本件移転先区画に本件墳墓を移転する義務を認めても、移転した後の本件墳墓に焼骨を埋蔵することができる以上、墓埋法13条の趣旨に反するものではないと考えるべきである。」