無縁墳墓改葬に関するトラブル
墓地を承継する者がおらず、無縁墓地(無縁墳墓)となった場合、墓地管理者は、一定の手続のもと、墓石を撤去したり、遺骨を合葬したりすることができます。
すなわち、墓石の撤去は遺骨の場所的移動を伴うので改葬に該当するため、改葬についての市町村長の許可を受ける必要があります(墓地、埋葬等に関する法律5条)。
また、縁故者及び無縁墳墓等に関する権利を有する者に対し1年以内に申し出るべき旨を、官報に掲載し、かつ、無縁墳墓等の見やすい場所に設置された立札に1年間掲示して、公告するなどの手続を履践しなければなりません(墓地、埋葬等に関する法律施行規則3条)。
しかし、墓地管理者が上記手続のみを履践すればよいというものでもなく、本当に無縁墳墓であるか否かの調査を尽くす必要があり、無縁墳墓と軽信して、墓石を撤去したり、遺骨を合葬したりすると、墓地使用権者に対して損害賠償義務が発生することになります。
裁判例
東京地裁平成19年2月8日判決・判例秘書
遺骨を納め、墓地として使用してきた墓所を無縁墓と取扱って墓石を撤去し、第三者に新たなる墓地として使用させたとする不法行為に基づく損害賠償請求が認められました。
高松高裁平成26年2月27日判決・判例秘書
判決は、次のように述べ、寺にある祖父母の墓が「無縁墓」と判断され撤去されたとして、遺族の寺に対する、①慰謝料請求(約370万円)および②本件墓地に墓石を建立し、遺骨を安置することの妨害禁止を認めました。
「Bは、昭和46年8月頃、被控訴人から本件墓地の永代使用権を取得し、その上に墓を建立して、Aの遺骨の入った骨壺を埋葬し、B死亡後は、Cが祭祀主宰者の地位を承継し、本件墓地にBの遺骨の入った骨壺を埋葬しており、A及びBの葬儀、一周忌法要、三周忌法要等は被控訴人の前住職によって執り行われ、同住職は、平成11年春の彼岸まで、C宅に赴いて棚経を行っていたのであるから、△△家は被控訴人の檀家であったもので、被控訴人の前住職は本件墓地の使用者であるCの住所氏名及び連絡先を把握していたと認められる。しかし、被控訴人は、被控訴人墓地について、法15条1項、規則7条が定める墓地使用者等の住所氏名を記載した帳簿を備えておらず、他に本件墓地の使用者を記載した過去帳等の帳簿を有していなかったため、その後、前住職が病気になり、死亡したこともあって、後任の住職である被控訴人の現代表者は、前住職から、本件墓地について適切な引き継ぎを受けることができず、本件改葬行為当時、本件墓地の墓地使用者等を把握していなかったが、被控訴人が墓地使用者等に連絡できない状況にあったことについては、被控訴人に責任があるというべきである。そして、本件墓地の墓石はそれほど古い時期とはいえない昭和46年8月に建立されたものであり、現代表者も、平成13年か14年頃に本件墓地の墓参者を見たことがあり、その際に前住職の妻から同人が『△△』であることを知らされていたもので、さらに、本件墓地には本件改葬行為直前にも複数回にわたって墓参の形跡があったのであるから、本件改葬行為当時、本件墓地には依然として使用者又は縁故者が存在することが強く疑われたというべきであり、このような墓地を無縁墓地として改葬を行い、墓石を撤去処分し、骨壺や遺骨を搬出するには、さらに相当期間をかけて使用者の有無について調査を尽くす義務があると解される。したがって、被控訴人が本件墓地を無縁墓地であると判断して調査義務を尽くさないで本件改葬行為を行ったことには過失があるというほかなく、本件改葬行為は本件墓地の使用者であったCに対する不法行為を構成するというべきである。
これに対し、被控訴人は、法や規則の手続に従ったなどと主張するが、改葬を行おうとする場合には、法や規則の定める手続を実施しなければならないというにすぎず、これらの手続を履践したからというだけで、永代使用権を消滅させることができるものではない。また、被控訴人は、本件プレートを本件墓石に取り付けるなどして改葬を予告したこと、担当者が年6回1日常駐して改葬の対象となっている墳墓について聞き取り調査を行ったことや、数年間にわたりCから墓地管理料の支払がなされなかったことを指摘するが、墓地使用者が1年半程度の期間墓参せず、本件プレート等に気づかなかったり被控訴人から請求を受けないまま数年間管理料の支払をしなかったりしたことをもって、本件墓石の破壊・撤去という重大な結果を受忍すべきであるとはいえないし、これを過失相殺の事由とすることも相当ではない。被控訴人の上記主張はいずれも理由がない。」