墓地にかかわる犯罪
墓地その他礼拝所は、一般の宗教感情により神聖視され、崇敬される場所です。そのため、刑法において礼拝所不敬罪(刑法188条1項)その他の犯罪が規定されています。
また、「墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われること」を目的として、墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法、ぼまいほう)が制定されており、火葬場以外での火葬、墓地以外での埋葬、無許可墓地経営について罰則が定められています。
刑法
礼拝所不敬及び説教等妨害
神祠(し) 、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為をした者は、6月以下の懲役若しくは禁錮又は10万円以下の罰金に(188条1項)、説教、礼拝又は葬式を妨害した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮又は10万円以下の罰金に処せられます(188条2項)
裁判例
東京高裁昭和27年8月5日判決・判例タイムズ24号64頁
墓地において放尿する格好をする行為が礼拝所不敬罪に該当するとされました。
最高裁昭和43年6月5日判決・刑集22巻6号427頁
県道につながる村道に近接し、他人の住家も遠からぬ位置に散在する場所にある共同墓地において、墓碑を押し倒した被告人らの行為は、たまたま、その行為が午前2時ごろに行なわれたもので、当時通行人などがなかったとしても、刑法第188条第1項にいう公然の行為にあたるとされました。
福岡高裁昭和61年3月13日判決・判例タイムズ601号76頁
墓の仏石を押し倒して転落させ、その衝撃で門石を折損させるなどした行為が礼拝所不敬罪に該当するとされました。
東京地裁昭和63年7月11日判決・判例タイムズ694号168頁
酔って墓地に立ち入り墓碑を次々に転倒させた行為が礼拝所不敬に当たるとされました。
墳墓発掘
墳墓を発掘した者は、2年以下の懲役に処せられます(189条)。
裁判例
最高裁昭和38年7月30日判決・最高裁判所裁判集刑事147号897頁
単に墓地の管理寺院と墓地の使用者またはその縁故者とが無関係であるという事だけではこれを無縁墓地と断ずることはできないとし、墳墓発掘罪の成立を認めた原審判決を相当としました。
最高裁昭和39年3月11日決定・最高裁判所刑事判例集18巻3号99頁
墳墓発掘罪の発掘とは、墳墓の覆土の全部または一部を除去し、もしくは墓石等を破壊解体して、墳墓を損壊する行為をいい、必ずしも墳墓内の棺桶、遺骨、死体等を外部に露出させることを要せず、いわんや棺桶、遺骨、死体等を取り出して公衆の目に触れる状態に置くこと、またはそれらを隠匿しもしくは領得することは、その成立要件ではないとされました。
福岡高裁昭和59年6月19日判決・判例タイムズ534号244頁
刑法189条にいうところの「発掘」とは、墳墓の覆土の全部または一部を除去し、もしくは墓石等を破壊解体して墳墓を損壊する行為をも含むものと解すべきであるが、その「墓石等を破壊解体して墳墓を損壊する」とは、墳墓発掘罪の性質上、少なくとも、その納骨室の壁、天井および扉等の重要な部分を破壊解体することを必要とするものと解するのを相当とするところ、被告人が、前後2回にわたり、墓の納骨室の重要な部分を破壊解体したとまではいうことはできないとし、墳墓発掘罪の成立が否定されました。
死体損壊等
死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処せられます(190条)。
墳墓発掘死体損壊等
第189条の罪を犯して、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3月以上5年以下の懲役に処せられます(191条)。
裁判例
千葉地裁平成26年5月20日判決・判例秘書
溺愛していた長女A(当時5歳)との無理心中を図り、Aを薬殺した殺人罪で服役し、仮釈放されていた被告人が、Aの墓を探し当て、Aの遺骨を持ち帰り自分で供養したいと考え、石材店に依頼し、情を知らない石材店をして蓋石を割らせたうえ、Aの遺骨が在中する骨壺を持ち帰った行為が墳墓発掘遺骨等領得罪に該当するとされました。
変死者密葬
検視を経ないで変死者を葬った者は、10万円以下の罰金又は科料に処せられます(192条)。
墓地、埋葬等に関する法律
火葬場以外での火葬(墓埋法4条2項、5条1項、21条)
仙台高裁昭和30年3月24日判決・高等裁判所刑事裁判特報2巻9号329頁
火葬場以外の施設で許可なく火葬を行った行為が墓地埋葬等に関する法律に違反するとされました。
墓地以外での埋葬(墓埋法4条2項、5条1項、21条)
東金簡裁昭和35年7月15日判決・下級裁判所刑事裁判例集2巻7~8号1066頁
亡夫の死体を墓地以外の区域である山林内に埋葬した所為につき期待可能性がないとして無罪とされました。
最高裁昭和39年3月27日判決・最高裁判所裁判集刑事150号811頁
共同墓地は部落所有のものであり同部落居住者は分家等により他部落から転入してきた者でも宗派の如何を問わず等しく同墓地に埋葬できたとし、墓地埋葬等に関する法律に違反するとされました。
無許可墓地経営罪(墓埋法10条1項、2項)
大阪高裁昭和52年1月19日判決・判例時報860号163頁
被告人らは、本件許可外の区域を、許可を受けた区域と一体をなす墓地用地に造成したと言い得るにとどまり、げんにこれを墓地にした事実はないのであるから、許可外の区域につき墓地を経営したとか、許可を受けて設けた墓地の区域を許可外の区域にまで拡張して墓地の区域を変更したとはいえないとし、無罪とされました。