遺言により子に相続させるとした不動産を成年後見人が売却した場合
親Aから「不動産を子Bに相続させる」旨の遺言を書いたところ、親Aが認知症になって弁護士等の専門職が後見人に選任され、当該不動産を売却するという事態もあり得ます。
その後に親Aが死亡して相続が開始した場合、上記不動産の売却代金を原資とする預金はどうなるのでしょうか?
結論は、遺言の解釈によりますが、遺言に不動産のことしか書かれていなければ、遺産分割の対象となってしまう可能性大です。
このような事案で、東京地裁平成29年3月17日判決は、子Bが、当該預金を他の相続人に払い戻した銀行、他の相続人に対して損害賠償及び不当利得返還請求をしましたが、棄却されています。
子Bとしては、①預金等の金融資産も子Bに相続させる内容の遺言を書いてもらう、②成年後見人に当該遺言の内容を伝えて当該不動産を売却しないようお願いする(ただし、親Aの生活費等捻出のため売却されることも有り得ます)、などの方策をとっておく必要があります。
東京地裁平成29年3月17日判決・判例秘書(平成27年(ワ)第28661号)
「原告は、本件遺言がされた当時、本件不動産が亡Aの財産に占める割合は85%以上であり、亡Aの意思としては、財産の大部分を原告に遺贈する意思であったのであるから、本件遺言の解釈として、本件不動産が転化した本件預金債権にも本件遺言の効力が及ぶものと解され、原告は本件預金債権全額を取得する旨主張する。
しかしながら、本件遺言は、第1条で本件不動産を原告に相続させ、第2条で本件遺言の遺言執行者を原告に指定することを定めるというものであり、預貯金その他本件不動産以外の遺産については一切言及がないことは文言上明らかである(略)。原告は、遺言書作成当時の事情等として、亡Aの預貯金は約700万円であることを前提に、本件不動産が亡Aの遺産(総額約4800万円)の85%を占める旨主張するが、亡Aの平成19年○月○日及び平成24年○月○日の預金残高(略)から、本件遺言作成当時の預金残高を推認することはできず、他に、本件遺言当時の亡Aの遺産総額が約4800万円であったことを認めるに足りる的確な証拠はない。仮に、本件不動産が亡Aの財産に占める割合が85%以上であったとしても、本件遺言の上記文言の明確さに照らせば、その合理的意思解釈としても、本件不動産を原告に相続させるということに尽きるものといわざるを得ず、本件不動産以外の財産、すなわち、本件預金債権をも原告に取得させる意思であったと認めることはできない。したがって、本件預金債権にも本件遺言の効力が及ぶものと解する余地はなく、原告の上記主張は採用することができない。」
(弁護士 井上元)