包括受遺者の1人が放棄した場合の財産の帰属~最判令和5・5・19
Aが死亡し、子Bと子Cが相続人であったところ、Aは、一切の財産を、Bに1/2の割合で相続させるとともに、Bの子Dに1/3の割合で遺贈し、Cの子Eに1/6の割合で遺贈するとの遺言を残していました。そうしたところ、Eが遺贈を放棄したのですが、Eに遺贈させるとされていた1/3は他の包括受遺者であるDにも帰属するのでしょうか?
ややこしい事例ですが、これは最判令和5・5・19判時2572号51頁・判タ1511号107頁の実際の事例です。
民法995条(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)では、「遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」と規定されていますが、「相続人に帰属する」とされる「相続人」に包括受遺者が含まれるのか否かの問題です。
この点、従来、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有することから(民法990条)、失効受遺分は相続人に加えて他の包括受遺者にも帰属すると解する見解もありましたが、現在の多数説は、民法995条の「相続人」に包括受遺者は含まれず、失効受遺分は専ら相続人に帰属すると解しています。
この問題につき、上記高裁判例は、多数説に従って、遺言者がその遺言に別段の意思を表示した場合を除き、失効受遺分は他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属するとしました。
最判令和5・5・19判時2572号51頁・判タ1511号107頁
「民法995条は、本文において、遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属すると定め、ただし書において、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うと定めている。そして、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(同法990条)ものの、相続人ではない。同法995条本文は、上記の受遺者が受けるべきであったものが相続人と上記受遺者以外の包括受遺者とのいずれに帰属するかが問題となる場面において、これが「相続人」に帰属する旨を定めた規定であり、その文理に照らして、包括受遺者は同条の「相続人」には含まれないと解される。そうすると、複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属すると解するのが相当である。」
(弁護士 井上元)