遺産分割協議後に発見された遺産の分割
遺産分割協議を行って遺産を分割した後、新たに遺産が発見されることがあります。この場合、新たに発見された遺産を分割するに際し、先行の遺産分割が考慮されるのでしょうか?
例えば、被相続人Aが死亡し、XとYが相続人(法定相続分各1/2)であったところ、遺産分割協議によりYが多くの財産を取得したとします(先行の遺産分割)。その後、新たに亡Aの遺産が発見された場合、先行の遺産分割においてYが多く取得したことを考慮し、後行の遺産分割においてXが多くを取得することができるのかという問題です。
残余財産の分割に際して先行の遺産分割を考慮するか否かについては、当事者の意思解釈の問題とされており、東京家審昭和47・11・15と大阪家審昭和51・11・25は考慮するとしています。これに対し、近時の裁判例である大阪高決令和元・7・17は考慮しないとしています。
裁判例
東京家審昭和47・11・15家裁月報25巻9号107頁
「一部分割は相続税申告に際し、その存在が明らかであるものをまず分割しようとしたこと、しかも一部分割した遺産を除いてもその不均衡を是正しうるに足る残余財産のあることが認められるので、一部分割をなす合理的理由があるものと認められる。そこで残余財産の分割において、遺産全体の総合的配分の公平を実現するために、残余遺産についてのみ法定相続分に従った分割で足りるか、一部分割における不均衡を残余遺産の分配において修正し、遺産全部について法定相続分に従う分割を行なうべきかが問題となるが、この点については一部分割の際の当事者の意思表示の解釈により定まり、共同相続人が一部分割の不均衡をそのままにし、すなわち一部分割における自己の法定相続分に不足する部分については各当事者が持分放棄あるいは譲渡の意思で一部分割を行なうときは、残余遺産につき前者の方法によることを承認したものとみられるが、このような特段の意思表示のないときは、残余遺産につき後者の方法によることを承認したものと推認すべきものと解される。ところが本件一部分割の協議に際して、各当事者はこの点につき別段の意思表示をしたものとは認められない。然るときは、本件遺産分割においては、一部分割の協議の有効を前提とし、残余遺産のみを分割の対象とするけれども、遺産全都の総合的配分において公平が保てるよう一部分割における各当事者の法定相続分との過不足を本件遺産分割において修正すべきものと解する。」
大阪家審昭和51・11・25家裁月報29巻6号27頁
「自賠責保険金700万円は分割協議がなされた時点においては、支給決定はなされておらず、また、これ程高額が支給されるとは予想し得なかったもので、いわば、分割協議後に判明した遺産であること。また、相手方と申立人とが別居することとなり、時期的にも遺産分割をすることが望ましいときであったこと、更に、上記の金700万円をもってすれば、一部分割の際の不均衡を是正し得ることが認められ、本件において、一部分割をなす合理的理由があるものと認められる。しかして、残余財産の分割においては、遺産全体の総合的配分の公平を実現するため、一部分割における不均衡を修正し、遺産全部について法定相続分に応じた分割を行うべきであると解する。従って、本件においては、一部分割の協議の有効を前提とし、残余財産のみを分割の対象とするけれども、遺産全部の総合的配分において公平が保てるように、一部分割における相続人の法定相続分との過不足を本件遺産分割において修正すべきであると考える。」
大阪高決令和元・7・17判時2446号28頁・判タ1475号79頁
「先行協議の対象となった被相続人の遺産には、不動産のほか、現金や預貯金もあったところ、Yは、現金や預貯金は取得せず、本件各土地と農耕具などを取得し、Xは現金200万円のみを取得しているのに対して、亡Dは不動産のほかに183万円余りの預貯金と現金100万円も取得することとして、相互に代償金の支払を定めることもなく遺産分割協議が成立していることが認められることからすると、先行協議の当事者は、各相続人の取得する遺産の価額に差異があったとしても、そのことを是認していたものというべきである。そうすると、先行協議の際に判明していた遺産の範囲においては、遺産分割として完結しており、その後の清算は予定されていなかったというべきである」
(弁護士 井上元)