調停なさず・調停不成立・調停取下げとは?
家事調停を申し立てたものの、話し合いがまとまらないため、調停の成立によらずに調停が終了することがあります。この手続について、「調停なさず」、「調停不成立」及び「調停取下げ」の3つがあります。
それぞれ、要件、手続、効果が異なりますので整理して説明します。
調停なさず
家事事件手続法271条(調停をしない場合の事件の終了)で「調停委員会は、事件が性質上調停を行うのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときは、調停をしないものとして、家事調停事件を終了させることができる。」と規定されており、この規定により調停を終了させる方法です。
①事件が性質上調停を行うのに適当でないと認めるときの例として、婚姻中の男性が妻以外の女性と同居を求める場合など調停を求める事件の内容が法令や公序良俗に違反しているような場合が挙げられています。
②当事者が不当な目的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときの例として、専ら義務の回避、訴訟や家事審判の手続の引き延ばしを目的に調停の申立てをしたような場合が挙げられています。また、自ら申し立てをした申立人が調停手続の追行に不熱心である場合にも、この規定により調停をいないものとすることができます。
調停委員会または裁判官が、調停をしないものとした場合には、家事調停手続は終了します。審判事項の場合であっても、家事審判の手続に移行しません。
遺産分割調停において、前提事実について争いがあり、調停委員会から訴訟で解決するよう促された場合、通常、調停申立てを取下げますが、これに応じなければ、この条項により調停終了になると思われます。
調停不成立
家事調停の手続は、当事者の合意の成立による解決が目的ですので、家事調停の手続の過程において、合意が成立する見込みがないと認められた場合には、家事調停の手続を進めることに意味はなく、かえって、最終的な解決を遅滞させることになりかねません。そこで、調停委員会または裁判官が当事者間に合意が成立する見込みがない場合には、調停が成立しないものとして家事調停事件を終了させることができます(家事事件手続法272条1項)。
また、当時者間の合意が成立しても、合意が相当でない場合には、調停を成立させるべきではありませんから、この場合にも調停不成立として家事調停事件を終了させることができます(同条)。合意が相当でない場合の例として、不貞関係の継続を前提とした合意、子の養育上の必要性を考慮せずにした養育費の請求を一切しない旨の合意、法律上放棄することができない子の扶養料(民法881条)を親が放棄することの合意等が挙げられています。
審判事項について調停不成立によって終了した場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなされます(同条4項)。
調停取下げ
家事調停の申立ては、家事調停事件が終了するまで、その全部又は一部を取り下げることができます(家事事件手続法273条1項)。
調停の申立てが取下げられた場合には、家事調停の申立ての効果が遡及的に消滅することになります(同条2項において準用する民訴法262条1項)。
(弁護士 井上元)