被相続人の資産運用と寄与分
被相続人の生前に被相続人の財産につき資産運用したことが寄与分に当たるでしょうか?
この点につき大阪家庭裁判所平成19年2月26日決定が判断しており、珍し事例ですのでご紹介します。
大阪家審平成19・2・26家月59巻8号47頁
ア 株式、投資信託による資産運用には利益の可能性とともに、常に損失のリスクを伴う。しかるに、一部の相続人が被相続人の資産を運用した場合、その損失によるリスクは負担せずに、たまたま利益の生じた場合には寄与と主張することは、いわば自己に都合の良い面だけをつまみ食い的に主張するものであり、そのような利益に寄与分を認めることが相続人間の衡平に資するとは、一般的にはいいがたい。
イ 申立人Aの寄与分主張のアについて見ると、株式等の運用益の大半を占めるのは、被相続人がFから相続した□□□株式の売却益2824万余円である。これ以外の取引には大幅な損失を生じた取引もあり、被相続人の相続開始時までに売買を完了した取引に限っても、損益合計で若干の利益に止まっている。被相続人の死亡時に残存した株式等の評価については、かえって大幅な評価損を生じていた可能性すら否定できない。
申立人Aの購入した株式、投資信託によって、6年間で合計1105万余円の配当金等を得ており、□□□株式を保有し続けた場合よりも多くの配当金等を得た事実は窺われる。しかしながら、もともと被相続人の保有資産は多額であり、それと比すると死亡時に残存した株式等が評価損を生じていた可能性も否定できないことなどを考え併せると、より多くの配当金等を得たからといって、申立人Aの資産運用が被相続人の遺産に寄与したとはいまだ認められない。
□□□の取引については、株価が上昇した時点で売却したことで、大幅な利益を生じている。しかしながら、株価の上昇自体は偶然であり、単にその時期を捉えて保有株式を売却した行為のみで、特別の寄与と評価するには値せず、この点においても、申立人Aの資産運用に寄与分は認められない。
ウ 申立人Aの寄与分主張のイは、要するに、申立人Aが資産運用した結果、そのまま被相続人の資産を維持した場合と比較して、被相続人の支出による資産の目減りを少なくした旨の主張である。
しかしながら、この主張の中で、被相続人が6年間で支出したとされる生活費(高額商品の購入等は除く。)3056万円は、一般的な生活費と比較すると相当高額である。しかるに、被相続人がそのような高額な生活費を現に支出したことを裏付ける的確な資料は一件記録中見当たらない。また、この主張における計算方法では、Fの相続時点の被相続人の固有資産が考慮されていないが、被相続人が少なくとも(3)認定事実のイ記載の資産を保有していたことによれば、これを考慮しない計算方法は妥当でない。このように、寄与分算定の前提とする数字や計算方法の妥当性に疑問があることからすると、寄与分主張イの観点からしても、申立人Aの資産運用が被相続人の遺産に寄与したとはいまだ認められない。
エ したがって、申立人Aの寄与分に関する主張は認められない。
(弁護士 井上元)