相続させる旨の遺言に民法1002条1項を類推適用した大阪地判令和3・9・29
被相続人Aが、「不動産をYに遺贈する代わりに、YがXに1000万円支払う」との遺言は、負担付遺贈となります。そして、この場合、負担付遺贈を受けたYは、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います(民法1002条1項)。上記の例で言うと、Yが遺贈により取得した不動産の価額が500万円なら、YはXに500万円を支払えば足りることになります。
それでは、被相続人Aの遺言が、「不動産をYに相続させる代わりに、YがXに1000万円支払う」(特定財産承継遺言)の場合、遺贈に関する民法1002条1項が適用されるのでしょうか?
この問題につき、大阪地方裁判所令和3年9月29日判決(判時2530号58頁・判タ1499号195頁)が判断しておりますので、参考のためご紹介します。尚、相続人の1人に負担付きで特定財産を相続させる旨の遺言がされた場合に、民法1002条1項も「目的物の価額」を負担額と同額としてしまうと、特定財産を承継する相続人の相続分が考慮されておらず、相続させる趣旨の遺言に同項の類推適用を認める場合には、この点に注意を要するとの指摘があります。
大阪地方裁判所令和3年9月29日判決
(本件公正証書遺言に負担付き遺贈の規定が準用又は類推適用されるか)について
「負担付きで『相続させる』趣旨の遺言がされた場合も遺産分割の方法の指定であると解されるところ、当該負担が特定の遺産の価額を超える場合、遺言者の意思として、遺言による遺産分割の方法の指定とともに遺言による相続分の指定によって相続分が変更されたと解すべき場合がある一方で、被相続人である遺言者が相続人間の公平を図る趣旨で特定の遺産を取得する相続人にその対価を他の相続人に支払うことを求めたものの、その後の事情の変更などによって当該負担が特定の遺産の価額を超えたにすぎない場合もある。そして、遺言者が負担付きで「相続させる」趣旨の遺言をした意図が、相続分の変更を含むものであれば、民法1002条1項が類推適用される余地はなく、遺留分減殺請求による調整や相続放棄による負担からの解放が残るのみであるが、相続人間の公平を図る趣旨に基づくものであれば、特定の遺産の価額を超える負担を特定の相続人に負わせることまでは被相続人として予定していなかったのであり、当該相続人が過大な負担を甘受すべき理由もないのであって、同項の趣旨がこのような遺言にも当てはまることになるから、同項を類推適用するのが相当である。
本件公正証書遺言については、その遺産のうち特定の財産である本件持分に限定したものであり、遺言者である亡Aが、本件負担について、本件持分を取得させる代わりにYに負わせる意図、すなわち、相続人間の公平を図る趣旨に基づくものであったと解され、これを超えて、本件持分の価額にかかわらず、遺言による相続分の指定によって相続分を変更させる意図まで有していたことはうかがわれない。よって、本件公正証書遺言については、民法1002条1項が類推適用される。」
(弁護士 井上元)