配偶者居住権の取得を認めた福岡家審令和5・6・14
平成30年の民法改正により「配偶者居住権」の制度が新設され、令和2年4月1日から施行されています。
福岡家庭裁判所令和5年6月14日審判(判例タイムズ1519号252頁)が妻に配偶者居住権を取得させています。実務上では余りみかけない事例ですのでご紹介します。
福岡家審令和5・6・14
事案の概要
被相続人の養子を申立人とし、被相続人の配偶者(相手方B)と実子(相手方C)を相手方とする遺産分割の事件において、配偶者(相手方B)が、遺産に属する建物への配偶者居住権の取得を希望したところ、その生活を維持するために特に必要があるとして、配偶者(相手方B)に配偶者居住権を取得させました。
主文
1 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
⑴ 相手方Cは、別紙1遺産目録記載1の土地、同記載2及び3の建物を取得する。
⑵ 相手方Bは、別紙1遺産目録記載2及び3の建物につき、存続期間を相手方Bの終身の間とする配偶者居住権を取得する。
配偶者居住権の評価
「当事者全員は、本件における配偶者居住権の評価について、次のとおり簡易な評価方法により、188万6241円とすることを合意した。同合意を不当と認める特段の事情はない。
⑴ 本件土地及び本件建物2の合計現在価額 356万4660円
⑵ 負担付本件各建物所有権の価額 法定耐用年数超過により0円
⑶ 負担付本件土地所有権の価額
【本件土地の現在価額】225万5940円×【83歳女性の簡易生命表上の平均余命10年を存続期間とするライプニッツ係数】0.744≒167万8419円(1円未満切捨て)
⑷ 配偶者居住権の価額
【上記⑴】356万4660円-(【上記⑵】0円+【上記⑶】)=188万6241円」
配偶者(相手方B)に配偶者居住権を取得させる理由
「相手方Bは、被相続人の配偶者であり、相続開始の時に本件不動産に居住していたところ、本件各建物について配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出ており、相手方Bは、配偶者居住権が設定された本件各建物の取得を了解している。そうすると、相手方Bの受ける不利益の程度を考慮してもなお、配偶者である相手方Bの生活を維持するために特に必要があると認められる。したがって、相手方Bに本件各建物につき存続期間を同人の終身の間とする配偶者居住権を取得させ、相手方Cに本件不動産の所有権を取得させるのが相当である。」
コメント
配偶者居住権は無償で取得することはできず、財産評価をしたうえで相続分として取得することになります。
そして、配偶者居住権の評価方法については次のように説明されています(堂薗幹一郎・野口宣大編著「一問一答 新しい相続法〔第2版〕」商事法務27頁)。
⑴「配偶者居住権の価額の算定方法については様々な考え方が検討されており、例えば、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会は、配偶者居住権の評価方法の1つの在り方として、配偶者居住権の価額は、「居住建物の賃料相当額」から「配偶者が負担する通常の必要費」を控除した価額に残存期間に対応する年金現価率を乗じた価額であるとする考え方を示しています。」
⑵「しかし、専門家以外の者には賃料相当額の算定や年金現価率の設定が困難であるため、特に共同相続人間の協議によって遺産分割をする場合には、より簡便な算定方法が必要になる。そこで、法制審議会民法(相続関係)部会においても、当事者の目安として利用する簡易な計算方法として、居住建物及びその敷地の価額から配偶者居住権の負担付きの各所有権の価額を引いた額を配偶者居住権の価額とする方法が検討された。」
⑶「また、平成31年度の税制改正において相続税における配偶者居住権の価額の評価方法が定められたことから、当事者間の協議において、これを用いて算定された評価額等を参考にして分割することが有り得るものと考えられる。」
(弁護士 井上元)