「相続分なきことの証明書」、「特別受益証明書」の問題点

「相続分なきことの証明書」(「特別受益証明書」、「相続分不存在証明書」と言うこともあります)というものがありますが、これはどのようなものなのでしょうか?

相続の際には遺産分割協議書が作成され、これに基づいて不動産の相続登記を行ったり、預金を解約したりします。

しかし、遺産が不動産だけである場合、遺産分割協議書ではなく、「相続分なきことの証明書」により相続登記が行われることがあります。これは、当該不動産を取得しない相続人が「相続分なきことの証明書」と印鑑証明書を交付すれば、不動産を取得する相続人への所有権移転登記を行うことができるという通達(昭和28年8月1日民事甲第1348号民事局長回答)があるためです。

「相続分なきことの証明書」とは、自分は被相続人の生前に相応の財産をもらっているので(特別受益)、相続分はないことを証明しますという内容の書類です。

実際に生前に相応の財産をもらっている場合はともかく、財産をもらっていない場合には、内容虚偽の証明書であることになります。例えば、被相続人Aが死亡してXとYが相続し、Xは、Aの生前に何も財産をもらっていないにもかかわらず、Yの依頼により「相続分なきことの証明書」と印鑑証明書を交付し、不動産がYに所有権移転登記された事案で、XはYに対して、当該不動産につき遺産分割を求めることができるのでしょうか?

この点に関する裁判例では、①「相続分なきことの証明書」は内容虚偽である場合、XはYに対して遺産分割を求めることができるとするものと、②「相続分なきことの証明書」の作成により遺産分割協議もしくは贈与が成立したとするものがあります。

多くの裁判例は、「相続分なきことの証明書」を作成した状況により、Xが当該不動産をYに取得させる意思を有していたか否かを検討して結論を導いています。このような意思が認められる場合には遺産分割協議成立などを認め、このような意思がない場合には遺産分割協議成立などを否定しているのです。

「相続分なきことの証明書」は、後々、トラブルのもととなりますので、不動産移転登記に際しては遺産分割協議書を作成すべきでしょう。

尚、東京高裁昭和56年5月18日判決・判例タイムズ455号108頁は、相続分のないことの証明書は証書真否確認の訴えの対象とならないとしています。

裁判例

大阪家裁昭和40年6・月28日審判・判例タイムズ193号197頁

長男名義に単独相続登記がなされているとき、登記原因を証する他の相続人の「相続分なきことの証明書」が事実に反し虚偽である場合には、かかる単独相続登記を許す相続人全員の合意があっても、あらためて遺産分割ができるとされました。

新潟家裁三条支部昭和44年2・月25日審判・判例タイムズ243号315頁

相続人のある者から相続分として金員を受領し、当該遺産については相続分のないことを記載した受領書を交付した場合は、同金員を受け取ることにより同人の相続分は他の相続人に譲渡されたものと認められるとされました。

京都地裁昭和45年10月5日判決・判例タイムズ256号155頁

共同相続人甲が、共同相続人乙の依頼にもとづいて、被相続人名義のA不動産につき乙単独所有名義に相続に因る所有権移転登記をするために、「甲は相続分がない」旨の事実に反する証明書を乙に交付した場合、甲は、共同相続人としてA不動産に対して有する自己の持分権を、乙に贈与したものと認めるのが相当であるとされました。

仙台家裁昭和46年3月17日審判・判例タイムズ276号380頁

内容虚偽の相続分がない旨の証明書を作成し、これを使用して単一の相続人に遺産の相続登記をする方法が、分割協議の便法として利用されている現状を考えると、相続人全員が遺産を1人の単独所有にさせる旨の合意をしており単に手続のうえで簡便な前記証明書を利用することを了解しているような場合にまで、この方法による分割協議を無効とする必要はないとされました。

静岡地裁昭和48年8月31日判決・金融・商事判例570号25頁

「相続分のなきことの証明書」による遺産分割協議の成立が否定され、控訴審の東京高裁昭和50年4月30日判決・金融・商事判例570号22頁もこれを維持しました。

大阪高裁昭和49年8月5日判決・判例タイムズ315号238頁

共同相続人甲、乙らが、共同相続人丙の依頼に基いて、被相続人名義の不動産につき丙単独所有名義に相続に因る所有権移転登記をするために、民法903条2項により相続分がない旨の事実に反する証明書を、丙に交付した場合、甲、乙らは、共同相続人として同不動産に対して有する自己の持分権を、丙に贈与したものと認めるのが相当であるとされました。

名古屋地裁昭和50年11月11日判決・判例タイムズ334号285頁

生前贈与をうけた事実がないにも拘らず、贈与をうけた旨の内容虚偽の「相続分なきことの証明書」に押印したとしても、それにより相続分を失うことはないとされました。

大阪高裁昭和53年7月20日判決・判例タイムズ371号94頁

共同相続人の1人の単独相続による所有権移転登記をするために他の相続人が事実に反する特別受益者証明書を交付した場合、持分権を贈与したものとされました。

徳島家裁昭和53年8月16日審判・家庭裁判月報31巻6号44頁

遺産分割の協議には何ら特別の方式が要請されておらず、いわゆる「相続分なきことの証明書」による単独相続登記の方法が分割協議の便法として登記実務上多用されている現状を考えると、仮に同証明書の記載どおりの生前贈与がなくとも、相続人間に全遺産を一相続人の単独所有に帰せしめる旨の意思の合致があった以上、これにより実質的な遺産分割協議がなされ、その課程で遺産に対する共有持分権の放棄または贈与がなされたものとみうるから「相続分なきことの証明」による単独相続登記を無効とする必要はないとされました。

奈良地裁判昭和55年1月28日判決・判例タイムズ420号121頁

無相続分証明書の有効性が否定され、共有財産の放棄あるいは特定相続人のみが相続財産を取得することを内容とする遺産分割協議の意思を表示したものと認められないとされました。

福島家裁白河支部昭和55年5月24日審判・家庭裁判月報33巻4号75頁

相続分不存在証明書の作成、交付は、相続分を譲渡する趣旨でなされたものであることが認められるとされました。

東京高裁昭和56年5月18日判決・判例タイムズ450号111頁

相続分のないことの証明書が真正な成立を認めることができず、他に遺産分割協議の事実を認めるに足りる証拠がないとされました。

東京高裁昭和59年9月25日判決・判例時報1137号76頁

相続開始から23年余り経過した後、共同相続人の1人に対して、他の共同相続人らから自己には相続分が存在しない旨の相続分不存在証明書および印鑑登録証明書がそれぞれ交付されている場合に、遅くとも同書面が交付された時点で、共同相続人の1人が遺産を全部取得する旨の分割協議が成立したものと認めるのが相当であるとされました。

仙台高裁平成4年4月20日判決・判例タイムズ803号228頁

相続人が相続分なきことの証明書を作成・交付して持回りの方式により遺産分割協議に応じたとしても、その相続人が他の相続人に関する協議内容を提示されていなかったときは、協議の内容を了解したうえで、これを承諾する意思表示をしたとはいえず、遺産分割協議が成立したと認定することはできないとされました。

大阪地裁平成8年2月20日判決・判例タイムズ947号263頁

共同相続人の1人が他の共同相続人らに分割案を示す方法でなされた遺産分割協議が、その分割内容、方法等に信義に反する不公平が存するとし、特別受益証明書による遺産分割協議の効力は生じないとされました。

名古屋高裁裁金沢支平成9年3月5日決定・家庭裁判月報49巻11号134頁

「相続分なきことの証明書」の作成などの事情から遺産分割協議の成立を認めて遺産分割の申立てを却下した審判に対する抗告審において、同証明書は、遺産の換地処分の必要から作成されたもので、本件においては遺産分割協議が成立したものと認めることはできないとされました。

東京地裁平成14年11月26日判決・判例秘書

相続分なきことの証明書が直接に遺産分割協議の存在を証明するものではないが、本件では、被告が単独相続する旨の遺産分割協議が成立したことを推認することができるとされました。

東京地裁平成16年10月8日判決・判例秘書

「相続分なきことの証明書」の原告らの署名は、原告ら本人が行ったものではないことが認められるうえ、その文面も、Aの死亡による相続については、相続分がないことを証明するというにとどまるのであって、被告が原告らに対し、被告においてAの遺産をすべて相続することを承認してもらいたいと明確に説明したとは認め難い状況の下においては、これらの証明書及び印鑑登録証明書が原告らから被告に対して交付されたとしても、被告がAの遺産のすべてを単独相続する旨の遺産分割協議が成立したと認めることはできないとされました。

名古屋地裁平成22年2月25日判決・金融・商事判例1464号46頁

相続分不存在証明書による遺産分割協議の成立(一部分割)が認められるとされました。

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